国家主義の虚構
昨日は終戦記念日だった。東京の靖国神社には15万人の参拝者があったという。北京オリンピック開催中ということと、福田首相は靖国参拝を行わなかったことから、「神の国」発言や憲法改正を唱えた安倍前首相のときの昨年に比べるとあまりマスコミでも話題にもならなかったようだ。
昨夜、オリンピックの女子サッカーと同じ時間に放映されたNHKスペシャルで、「果てなき消耗戦 証言記録 レイテ決戦」という番組が放映された。これは太平洋戦争の一大転換点となったレイテ決戦の当時を知る日本、アメリカ、フィリピンの生存者の証言と当時の記録を集めたものだ。
昭和19年秋、戦局は悪化し、太平洋においてアメリカ軍の反攻が進みつつあった。そんな中、台湾沖海戦で日本海軍が空母11隻をはじめとするアメリカの艦隊を撃破したというデマ情報を真に受けた大本営発表で日本は油断しきっていた。そんなときレイテ島沖におびただしいアメリカの艦船が現れ、激しい集中砲火でレイテ島に上陸し、日本軍守備隊は壊滅的な被害を受けた。ところがその情報は日本本土に正しく伝わらず、大本営はアメリカ軍は台湾沖で壊滅的被害を受けた残存勢力と考え、1個師団を補給体制もないままに送り込む。現地に着いた部隊は、退却してくる日本軍に遭遇し事態の重大さに気付く。
物資、戦力で圧倒する米軍に日本軍は制圧され、補給を絶たれ、食料もなく兵士は倒れていく、特にリモン峠での戦いは悲惨であった。周りには累々と屍が横たわる中消耗戦が続く。日本軍は命令により退却は許されず、弾薬もなく、絶望的な斬り込み攻撃をかけて戦死していく。日米双方の兵士はお互いに、戦友を殺された復讐心に燃えて憎しみを増していく。
ある日本軍元兵士は、部隊を守るため軍命にそむいて部隊を退却させた大隊長が、上官から命令違反をとがめられ、部隊を引き連れて再突撃を命じられるが、大隊長は部隊をおいて一人で突入し戦死した話を涙を流しながら話されていた。追い詰められた日本軍はレイテ島からセブ島に転進(退却)する。しかし1万人の将兵に対して渡るための船は4隻しかなく、戦闘可能な900人だけが渡り、残りは自活してレイテ島死守を命じられる。
日本軍は食料を現地のフィリピン人から奪い、ゲリラの疑いをかけたフィリピン人を拷問し、情報が漏れないように殺害する。こうして憎しみの連鎖はますます高まり、日本軍は孤立し、山中に立てこもり赤痢や餓えで倒れていく。昨年、フィリピンに旅行する機会があり、今もフィリピンの人々の間には日本に対する憎しみが残っていることを感じたが、こういう話を聞くとそれは当然であると思う。そんな中、当時15才の少女だったフィリピン人の女性に、あるときひとりの弱った日本兵が現れ、彼女は食物を与える。彼は彼女に自分の妻と二人の子どもの写真を見せ、それを日本に送って欲しいと頼む。その写真はごく普通の幸せな家族の写真であった。彼女はその弱りきった兵士とその平和な家族の写真の強い印象を今も忘れられないと述べていた。
結局、レイテ島の戦闘では日米比合わせて10万人もの犠牲者が出た。日本軍は97%にあたる8万人の将兵が戦死という悲惨な結果になった。このようなことに至った原因を考えると、そのような無謀な作戦の背景には、日本の皇国史観を根底とする狂信的な国家(国体)主義思想があり、日本を天皇が現人神である神の国とする国家神道と、それに伴う不敗神話、戦死者を軍神として祀り上げる靖国思想がある。ここから日本国臣民は天皇に象徴される国体のために殉じるのが当然と言うことになる。そこから投降禁止や特攻攻撃などの非人道的な思想が出てくるのだろう。今のイスラム原理主義の自爆テロとも共通している。私も国のため家族のために命を捧げた方々には心から哀悼の意を表する。私もその当時生きていたら同じようにするしかなかっただろう。しかし靖国神社を参拝する人の気持ちは十分理解できるのだが、その動機は貴いがその行為は問題があると思う。靖国神社に祀られる戦死者を含む310万人もの戦争犠牲者をもたらしたのは、まさに靖国神社に象徴される虚構の国家主義システムにほかならないと思うからだ。それが虚構であることは、神風が吹くどころか、2個の原爆をもって戦争に完膚なきまでに敗れたこと、そして天皇の人間宣言で証明されたと思う。靖国神社は戦死者を悼む単なる宗教施設ではなく、国家主義の虚構の名残なのだ。そして戦後63年を経てもその虚構は折あらば亡霊のように頭をもたげてくる。
その中で前述の当時15才の少女だったフィリピン人女性の証言は心を打つ。確かに私たちは巨大な社会のシステムの中に生きているが、私たちの生きる地に足のついた生活の場における、人と人との交わりの中に真実がある。イエスは「神の国は、あなたがたのただ中にあるのです。」と言われた。イデオロギーとしての神の国ではなく、私たちの内にある神の国に生きたいものだと思う。
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